第17回難民映画祭で本邦初公開となった映画『物語は終わらない~難民芸術家たちの革命~』の日本語字幕は、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)監修のもとで、青山学院大学総合文化政策学部「映像翻訳ラボ」の学生9名が作成しました。
このページでは、この映画を観る方が本作品の理解を深め、映画をいっそう楽しんでいただけるよう、私たち「ラボ」の学生が独自にまとめた作品解説を掲載しています。本作品の視聴と合わせてお読みいただければ幸いです。
また、別掲載の監督インタビューもご覧下さい。こちら
目次
2011年にシリア内戦が始まって以来、50万人以上の人々が殺害され、約1300万人が難民や国内避難民となった。10年以上たった今でも内戦は収束しない。本作品は、みずからの芸術活動を通じて正義、平和、そして表現の自由のために「革命」を目指すシリアの難民芸術家たちに焦点を当てたドキュメンタリーである。
作中には難民となったラッパー、ビジュアルアーティスト、ダンサー、シンガーといったさまざまなアーティスト計9名が登場する。
アサド政権側の攻撃が拡大し、多くの人が殺され、言論の自由のないシリアで彼らは常に危険と隣り合わせの中、活動を行ってきた。時には抗議に参加して歌ったことで逮捕されたり、音楽活動の帰りにスナイパーに狙われたこともある。やむなく出国を選んだ者たちだが、それでも彼らは家族と一緒に暮らすために、そしてシリアを万人のために取り戻すことを諦めてはいない。
彼らの中には、過去に政権側の虐待や拷問、誘拐などを受けた者もいる。新しい生活を求め、ボートや車といったそれぞれの手段で逃亡を試みたが、それは容易ではなかった。5日間歩き続けたことも、路上で過ごしたこともある。なお、過酷な逃亡生活を乗り越え、無事に国境を越えてヨーロッパで難民としての生活を送れても、シリアに残した家族や大切な人が心配で不安は消えない。
シリアに平和が戻っていない以上、芸術家たちの「革命」は成功したとは言えない。しかし希望を失うことはない。彼らは今なお、創造を止めることなく闘い続けている――。
本作の監督デイヴィッド・ヘンリー・ガースン(David Henry Gerson)は、2016年にAll These Voicesという作品で、学生アカデミー賞を受賞した。その機会に、同じく学生アカデミー賞を受賞した、4.1 Milesというギリシャ難民についての短編ドキュメンタリー映画を観た監督は、その映画を契機に難民問題に目を向けるようになった。
彼は第二次世界大戦以降、最大の難民を出している戦争がシリア内戦であることから、シリアに関心を持ち始めた。そして、様々なシリア難民に避難先の国でインタビューを行い、それぞれの身に起きたことを理解し、シリア内戦の内情について深く伝えるために、この映画の制作を決意した。また、彼の父親アラン・ガースンはウズベキスタンで生まれ、ドイツの難民キャンプで育った。監督本人はアメリカで育ち、難民としての経験がないことから、映画の制作には父親の体験を理解する目的も含まれている。
制作するにあたって監督は、シリアで起きた悲惨な出来事を、芸術を通して受け止めようとする行為に着目した。芸術作品について調査する中で、「闇を光に変える、あるいは何らかの形で表現することを選択した」アーティストを目の当たりにする。そして、彼らに倣い、シリア内戦という闇をテーマにしたものでありながら、より良い未来のために活動を続けるアーティストそれぞれの芸術への向き合い方を物語の軸として、映画を制作することにした。
撮影は2019年9月に、アーティストを出演者ではなく共同制作者であると捉え、彼らの意見も取り入れながら行われた。撮影後の2019年12月に父親が亡くなるも、映画のエピグラフとした、「大切なのは、亡くした人をどう思うかではなく、その人の影響で何を創るかだ」という父親の言葉を胸に、作品が重くなりすぎないよう、ユーモアを込めながら編集作業を行った。コロナ禍のために、自身の作品が観客にしっかりと届くのか不安になりながらも、2021年4月、The Story Won’t Dieを完成させた。
※監督のプロフィールは「監督インタビュー」に掲載しています。
2021年4月にホット・ドックス・カナダ国際ドキュメンタリー映画祭で世界初公開され、続いてアメリカの複数の映画祭で公開された。他にもポーランド、ノルウェー、イタリアなどの各国で上映されており、スペインでの映画祭の上映も決まっている。また6月にはロサンゼルスとニューヨークで、劇場公開された。 2021年に開催された作家国際映画祭にて、最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞。これらを始めとし、計4つの賞を受賞している。
『物語は終わらない~難民芸術家たちの革命~』
原題:The Story Won’t Die
監督:David Henry Gerson
制作国:アメリカ合衆国
制作年:2021
時間:1時間23分
日本語字幕:青山学院大学総合文化政策学部 映像翻訳ラボ(宮澤淳一研究室)
(「ラボ・アトリエ実習」履修生 9 名)
字幕作成:日本映像翻訳アカデミー
本作品には難民アーティスト計9名が登場する。彼らは祖国で起きている拷問や戦争などの悲惨な現実と戦うため、そして大切な人たちを守るために、祖国から離れた安全な土地でアートを創造し続けている。ここでは彼らがどのような経験をしてきて、現在どのような活動をしているのかを紹介していく(映画内での登場順)。
音楽家・プロデューサー
1989年にシリアのナベクで生まれる。ベルリンを拠点として活躍するミュージシャン兼プロデューサーである。シリアのバンドKhebez Dawleを結成し、そのリードシンガーを務めた。また、MMヒップホップやLo-Fi、フォークトロニカの曲をプロデュースしている。
この映画ではオープニング曲を担当した。シリアでの経験を歌詞に乗せ、ギターやドラムなどの楽器を使って情熱的に歌い上げている姿が印象的だ。ダマスカスに住んでいたが、2013年初めに内戦を逃れて、ドラムセットを船に載せてシリアから脱出した。バンドのメンバーと船でエーゲ海を渡り、ギリシャのレスボス島に到着すると、持ってきたCDを海辺で無料で配り話題になる。2015年にベルリンに移住した。
作中では、サンプル音源にアラブのポップソングやドレイクの「トゥー・マッチ」のアカペラを使用したビートを作ったり、ラッパーのアブ・ハジャルと曲を作っている。
また、映画の終盤に“تعب المشوار/عيني عليها”という曲が登場するが、作中に出てくる歌詞「この旅には もう疲れ果てた」やバラードの曲調から、悲しさややりきれない思いが伝わってくる。
楽曲“تعب المشوار/عيني عليها”はこちらから
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アナス・マグレビについて
https://www.hkw.de/en/programm/beitragende_hkw/m/anas_maghrebi.php
Anas Maghrebi & COYGによるコンサートの紹介ページ
https://goout.net/en/anas-maghrebi-and-coyg/szibwjl/
Anas Maghrebi (YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UCHE07_HGkZnTvPm5hAvEsIA
ラッパー・音楽家
この作品の全編をとおしてたびたび登場し、一番の中心人物とも言えるアブ・ハジャルは、政治的なテーマを扱うラッパーであり、ミュージシャンでもある。彼は1987年に生まれ、タルトゥースで育った。
故郷シリアで、彼のヒップホップである楽曲の歌詞に反発したアサド政権により、2012年3月から5月まで投獄され2度の拷問を経験した後、出国。もともとシリアの大学で政治経済学を専攻、ローマで経済学の修士号を取得している(その後ベルリンでは博士号を取得)。現在はベルリンに住み、ラッパー兼活動家として、彼自身の音楽で、正義や平和、表現の自由を求めて戦っている。
作中で流れるラップは、2020年にリリースされた “Muhkam Tanzili” である。これは、不自由な施設に入れられたり、安価な労働力に利用されたりといった、ヨーロッパでの難民の扱われ方への不満や苦悩を表現しながらも、難民に寄り添い、必ず故郷を取り戻すという、強い意志を歌っている。
リンク
アブ・ハジャル公式サイトhttps://mazzajrap.wordpress.com/
アブ・ハジャルについて(経歴を一部紹介)://www.huckmag.com/art-and-culture/music-2/syrian-rapper-berline-exile-mohammad-abu-hajar/
2016年に行われたラップバンドMazzajのプログラム紹介(経歴を一部紹介)
https://archiv2019.kunstverein-bielefeld.de/en/events/new-neighborhoods-forms-of-artistic-agency-in-relation-t
楽曲 “Muhkam Tanzili” https://www.youtube.com/watch?v=1MUhCXb54ns
ビジュアルアーティスト
1980 年にクウェートでシリア人の両親のもとに生まれ、ダマスカスで育つ。紛争で弟を亡くし、デモに参加して棒で叩かれた経験がある。
早朝に自宅のキッチンでひとりぼっちで絵を描き始めた頃のすがすがしい思い出から語り始めるブリスリは、2001年にシリアを拠点とし、アニメーションと子ども向け番組を専門とするSpacetoonテレビチャンネルでアニメーターとしてアートの仕事を始める。
2012年に暴力が拡大するにつれ、シリアで起きていることについてイラストを描き始める。下のイラストは同年にシリア南部のダラアで起きた大虐殺についてである。爆発で腕と脚を失った子どもの写真を見て描かれた。風船は子ども時代の象徴を表している。そして、これがLeave usというシリーズの出発点となった。映画の中でもこの作品が登場するが、風船の赤は血しぶきを表しているようにも見える。 2013年にシリアから逃亡を余儀なくされ、2014年にはレバノンの難民キャンプに壁画を描き、同時に子どもや大人向けのアートワークショップやイベントを開催。また2019年の6月には、ドイツのブレーメンで行われたジュノン・フェスティバルで個展を開き、「ハメルーンの笛吹き」のシリア版をはじめとした作品の展示を行う。 ブリスリは一貫して、作品に対し、社会主義やシリア国民の自由、そして、シリアで脆弱な立場にある子どもたちの声なき声を伝えたいというテーマを探求してきた。現在、彼女は戦争の影響を受けた子どもたちのためにアートセラピーのワークショップを行い、シリアの子どもたちや難民全般の教育に力を入れている。
Leave us (2012)
リンク
ディアラ・ブリスリについて(経歴とLeave usについて一部紹介)
https://inspire.gallery/artists/diala-brisly/
https://exhibition.respondmigration.com/diala-brisly/
行ってきた活動の紹介
https://diala-brisly.com/press/
作品紹介
https://www.bbc.com/news/magazine-35847632
ジュノン・フェスティバルサイト
https://spedition-bremen.com/events/junoon/
ビジュアルアーティスト
1980年、ダマスカス生まれ。シリアを拠点に、複数の技法を用いて制作活動をしていたタンマム・アザムは、祖国を追われ、その喪失感を表現するために新たな表現方法を模索する。
その後、彼は破壊された街並みに焦点を当て、シリアの破壊された建物の写真と、外国の名画を重ね合わせた作品シリーズであるSyria Museum (2013)を発表。作中のアートの中でも、一目置かれるであろう風船で建物が浮遊する作品Bon Voyage (2013)は、このような破壊行為は簡単に起こりうる、ということをシンプルながら強調している。
娘のサルマは、父の何事に対しても熱量があるところにとても感激している、と述べていることから、アザムのアートに対する思い入れは、作中の登場人物の誰よりも強い。また、「アートは政治に口出しはできるが、政治はアートに口出しできない」という彼の発言からは、芸術の力で、アサド政権を倒し、平和を願う気持ちがうかがえる。
2016年にアザムはドイツに移り、デルメンホルストの高等研究所で新しい素材と技法の探求を始める。ドバイやサンフランシスコ、ニューヨークなど、世界的な展示会では、紙を用いたコラージュ作品が展示される。絵画とコラージュを活用しているため、独特な作風がありながら、廃れた街や難民たちなど、情景が容易に想像できる作品となっている。
Syrian Museum – Goya (2013)
NY, Bon Voyage Series, Photomontage (2013)
リンク
タンマム・アザム公式サイトhttps://www.tammamazzam.com/
ビジュアルアーティスト
1979年、ダマスカス生まれ。活動家として写真を撮っていた彼は、2012年に身柄を拘束され、拷問を受ける。解放直後に両親と妻とともに出国、ベイルートに暮らす。2016年、アムステルダムに移住。以後、同地を拠点に活動し、ビジュアルアーティストとして、写真、映画、彫刻を発表している。
イマムの持ち味はユーモアとアイロニーに満ちた表現だ。これを持ち味にして、コンセプチュアル・アートを構成し、戦争とそれがもたらす被害の問題に取り組む。
映画の中では、みずからが受けた拷問の被害を語り、そこから生まれた「ノーラミクス」という半人半魚の「拷問のスーパーヒーロー」の映像を紹介する。これは変身のポーズをとった背広姿の魚人像 Noram (2018) として発表されている。
また、映画の中で、「シリア版の最後の晩餐」だと説明される写真は、Syrialism (2017) に含まれる1枚で、一連の写真は、自分自身のみならず、レバノンやヨーロッパ諸国に暮らすシリア難民たちに取材して、拉致・拷問の現実とその肉体的・精神的苦しみを訴える。
映画の後半で紹介されるのは、レバノンの難民キャンプを取材して、その現実を11枚の写真にまとめたプロジェクト Live, Love, Refugee (2015) である。世界16か国で展示された。
イマムの作品には、ほかに、UNHCRと DRC(デンマーク難民カウンシル)との共同企画で、難民として生きる若いシリア人女性たちを写した adolescent (2015)などがある。彼の生み出す作品は、どれも顔の表情や場の雰囲気が描写されている。そこからは、難民たちの苦悩が浮かび上がってくる。
Syrialism (2017)
“Live, Love, Refugee” (2015)
リンク
オマル・イマム公式サイト
http://www.omarimam.com/
キャサリン・エルデマン・ギャラリーの紹介ページ(詳細な経歴と、Love, Life and Refugee と Syrialismの一部を紹介) https://www.edelmangallery.com/artists/artists/g-n/omar-imam.html
adolescent (2014) を掲載するオマル・イマムのインスタグラム
https://www.instagram.com/p/4u8sfMDlJA/
現代振付家・ダンサー
シリアのダマスカスで生まれる。裕福でなかったアルダバルは、3ヶ月間歩いて移動を試みることもあった。主な滞在地はギリシャのテッサロニキだが、途中レバノンやイスタンブールに行き、4ヶ月ものあいだ路上で過ごす。ときには5日間も歩き続け、他の難民たちと身を寄せ合って夜を明かした。だがその経験は、彼の創作活動に大きな影響を与えた。本作品で登場する作品 sleeping memories (2019)もそのうちの1つである。
彼はシリアの高等演劇学校でダンスを学び、シリアのエナナ・ダンスシアターやベイルートのKOONシアターグループなど、アラブ地域の様々なグループで活動している。2015年にベルリンに到着し、コンテンポラリーダンスのワークショップに数多く参加し、難民の子どもたちにダンスを教えている。
それだけでなく映画の終盤でダブケのワークショップのシーンが出てくるように、2017年以来、アルダバルはミュージシャンのアリ・ハサン(Ali Hasan)とアデル・サバウィ(Adel Sabawi)と共同で Dabke Community Dancingを開き、ベルリン市民に伝統舞踊であるダブケを教えている。ダブケを踊ることは心の壁を取り払うことで、国籍や宗教など一切関係ない、とアルダバルは語る。
また、シリアのダンサーと Sasha Waltz & Guests(サーシャ・ワルツ&ゲスツ) によるワークショップでダンス劇 Amal (2016)を制作。Amalは、アラビア語で希望を意味する。メドハト・アルダバルはダンス劇Amalの発表の中で、数秒で愛する人を失うと書いている。生死を決めるのはほんの数秒であることが多い。作品の中でも愛する人を失う悲しみ、怒り、やるせなさを表現している場面は印象的である。また最後のシーンからは恐怖の中にいながらも、前に進もうとする希望を感じる。
なお、振付師・演出家であるニル・デ・ヴォルフの作品Come As You Are (2017)でも踊っている。
Amal (2016)
リンク
メドハト・アルダバルの公式サイト
https://www.medhat-aldaabal.com/projects/
メドハト・アルダバルについて(詳細な経歴、出身を一部紹介)
https://at-home.club/interview/medhat-aldaabal/
作品を年代別に紹介
https://jimdo-storage.global.ssl.fastly.net/file/b6c60401-e15b-43a9-aac7-07653dd5a87b/Medhat%20Aldaabal%202019.pdf
ダンス劇Amalの紹介ページ
https://zkm.de/de/event/2017/11/medhat-aldaabal-davide-camplani-amal-project-syr-d-amal
Amalの動画
https://youtu.be/p1vdN5sMi4A
ベルリンのダンスイベントに対して(Dabke Community Dancingを紹介)
https://tanzschreiber.de/en/a-circle-in-a-square-place/
https://spedition-bremen.com/events/junoon/
ミュージシャン
ファーストネームのみの「バヒラ」名義でも活動する。シリア初のガールズバンドKarmaの中心メンバーとして活動を始めるが、戦争の影響を受ける。作中ではスナイパーに狙われた経験も語っているが、危険な場所であると分かりながら、音楽活動をしたいという自分のために迎えに来てくれる母に感謝し、活動を止めなかった。
イスタンブールに移り、2015年にミュージックボード・アワードを受賞したアートポップバンドThe Last Postmanに参加。その後ドイツの首都ベルリンを拠点として、ソロ活動に続いてヨーロッパ・ツアーを開始し、ドイツとフランスの様々な会場で2019年のソロ・アルバムを演奏した。また2022年10月にベルリンで行われたAL.FESTIVAL.2022に出演した。
映画の中で歌われる “Randomly” は、2018年にsoundcloudとYouTubeで公開された。人生がいかにいい加減かを表現しており、ゆっくりとした落ち着いた曲調で、心安らぐ曲となっている。
リンク
AL.FESTIVAL.2022公式サイト(詳細な経歴を紹介)
https://alberlin.com/al-festival-2022/bahila/
silent green Kulturquartierサイト
https://www.silent-green.net/en/programme/detail/babylon-orchestra-with-bahila-hijazi
“Dandomly” (Acoustic Version)
https://youtu.be/p1vdN5sMi4A
テクノDJ・エレクトロニックプロデューサー
女性バンドの中でベースを演奏する姿が印象的である。バヒラと共に、シリア初の女性ロックバンドKarma に参加し、そのベーシストとしてキャリアを始めた。
映画の中では、シリアでは同じ圧力を受けているため、団結して行動できるが、逃亡先では同じ考えの人が見つからず、難しいと語る。また作中で、バヒラらと制作した”Randomly.”を披露。
現在はオーストリアを拠点にしている。DJやライブではダークサイツイストと組み合わせたグルービーなミニマルサウンドを演奏する。遊び心のあるシンセや他のデジタルやアナログの楽器を使用することで有名。ベルリン、ベイルート、リンツ、マドリードなどさまざまな国やフェスティバルで演奏した。
リンク
リン・マイヤのsoundcloud
https://soundcloud.com/lynnmayya
ブレイクダンサー
BBboy The Shadowの名でも活動するブレイクダンサー。映画の中盤から現われ、捨て置かれた救命胴衣のゴミの中でジャンプを披露する快活な若者である。ダンスをして、夢を追いかけながらも、シリアから母親を連れて一緒に暮らしたいと思っている。離れて暮らす母親との電話の場面が印象的で、家族のことを想い、心配している様子がうかがえる。
30人ほどと共にボートで逃亡し、ギリシャのモリアに到着した。そしてモリア難民キャンプに滞在したのち、イタリア、アムステルダムへと移動しながら活動した。彼は1998年シリアで生まれ、レバノンに逃亡し、その地域で最も有名なB-Boy ブレイクダンサーの1人になる。CM、MVにも出演経験がありレバノンのFast and Furious プレミアでも出演。
オランダの在留カードを取得し、現在はアムステルダムを拠点に活動している。次はハリウッドに行くのが目標だ。
リンク
ムハンマド・サブラを掲載するThe Story Won’t Dieのインスタグラム
https://www.instagram.com/p/CgcEibNOqAc/?igshid=YmMyMTA2M2Y=
ムハンマド・サブラのビジネスサイト
https://mhd-sabboura.business.site/#summary
難民の中にはまともに避難する準備もできずに祖国を離れる人が多くいる。例えば、国民の約3割である約680万人が国外に逃れているシリアでは、逃げる以外の選択肢がない状況に追い込まれ最低限の荷物だけを持ち、体力がなく歩けない祖父をおいて隣国であるトルコまで歩いて逃れた人がいる。また、偽造パスポートを使って国外へ逃れてる難民の方もいる。状況は様々であるが難民は厳しい環境のもとで祖国を逃れている。
逃亡先の国で難民として暮らすためには、出入国在留管理局による審査などを経て条約難民として認定される必要があるが、難民認定を申請している期間は原則として労働が認められていない場合が多い。難民として認められていない、つまり正規の在留資格を持っていない外国人を強制送還するまでの期間は、入国管理局の施設である収容所で生活することになる。1回目の審査で不認定となった場合はその期間で難民認定の再申請を行う。中には1年以上の長期にわたり、この入国管理局の収容施設で生活することになる外国人もいる。
シリアは西アジアの地中海に面した地域にある。アラブ人が人口の約75%にあたり、宗教もイスラム教が大半を占める。政体は共和制であるにも関わらず40年近く親子2代に渡りアサド大統領が独裁政治を敷いていた。2011年以降に中東諸国で起きた「アラブの春」に感化され民主化に対する動きが強くなるも、政府は一歩も引くことなく制圧を続けた。作中でも述べられていたように、シリア南部のダラアという街で2011年2月16日、ある少年たちが壁に反政府の落書きをしたことで暴力的な拷問を受けたことがきっかけとなり、市民たちは各地で本格的にデモを行った。最初のうちは平和的な抗議を行っていたが、政府が武力による鎮圧を図ったため次第に市民も武装するようになり、紛争は日常の出来事となってしまった。さらに反政府派のトルコ、サウジアラビア、アメリカの支持につく一方、現状維持を望むイラン、ロシア、中国はシリア政権を支持するなど状況はさらに複雑化した。またこれを受けて、欧米諸国等が石油の禁輸措置などを含む経済制裁措置を実施した。それに伴いシリア政府の外貨準備高は著しく減少したとみられ、シリア・ポンドの価値も著しく下落した。現在シリアでは、約1160万人以上の難民が人道支援を必要としている。
リンク
シリア内戦特集 国境なき医師団https://www.msf.or.jp/syria10/
シリア 国連UNHCR協会https://www.japanforunhcr.org/activity-areas/syria
シリア基礎データ 外務省https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/syria/data.html#section1
映像翻訳ラボでは2022年7~8月に字幕の作成を行ない、宮澤淳一教授、日本映像翻訳アカデミー、映画祭事務局の校閲を経ました。感動をもって作品に携わり、登場するアーティストの世界に触れた立場から、この映画の注目ポイントを上げさせていただきます。
●ダンサーのムハンマド・サブラが最も印象に残っています。この映画のポスターになっている人であり、出てきた芸術家の中で、誰よりも自分の将来や夢に期待を持っているように見えたので輝いていると感じました。きっとその輝きに心が惹かれるだろうと思います。(学生A)
●映画などを通じて難民問題に接すると、自分との生活の差に驚くし、助けたい気持ちになるけれども、そのたびに自分にそのアクションを起こす余裕も力もないことを実感します。それでも状況を学ぶことはできるので、皆さんにもこの映画を通して少しでも難民問題やシリア紛争について学んでもらえると嬉しいです。(学生B)
●芸術家たちがシリアから出ることを決意する場面が特に印象に残っています。人物が次々に入れ替わっていき、最初から登場していたアブ・ハジャルの言葉でリズム良く締まるのが収まりよく気持ち良いので、注目してください。(学生C)
●ラッパーのアブ・ハジャルが印象的でした。彼の歌詞は自分たちの置かれている現状への失望や亡命先での怒りなど感情がそのままむき出しに表現されており、怒りやフラストレーションといったすべての思いをラップに込めている姿に魅了されました。(学生D)
●ディアラ・ブリスリが、パリで周囲にシリアの惨状を伝えるためにパンフレット配布を行うも、何も変えられなかったと苦悩を吐露する場面が印象に残りました。この周囲はまさに私たちをも指していると思います。特に難民条約に批准しているのに関わらず、難民と呼べる人々をなかなか認定しないことで批判を受けることの多い日本で暮らす私たちは、このような問題に向き合う必要があるのではないでしょうか。(学生E)
●この映画は難民自身がその経験をそれぞれの芸術活動に映し出し、表現しており、我々の五感に訴えかける力がある芸術は直接心に響きます。特にアブ・ハジャルのラップは自分たちの置かれている現状への失望や亡命先での怒りなど、熱い想いが伝わりました。(学生F)
●作品中盤で、ダンサーのムハンマド・サブラが出演した場面から雰囲気が変わったのが印象的でした。彼が登場する前までは難民のアーティストたちは、今まで何を経験したかについて淡々と話していましたが、サブラは拍手をしたり、明るく振舞いながら夢について語っていたのが彼の性格が表れているような気がして面白かったです。(学生G)
青山学院大学総合文化政策学部には、外部の企業や団体と協力して活動する実習授業「ラボ・アトリエ実習」(通称「ラボ」)があります。
「映像翻訳ラボ」(正式名「映像翻訳を通じて世界と関わる」)は、2010年度から継続しているプロジェクトで、宮澤淳一教授の指導のもと、日本映像翻訳アカデミーでの研修・指導協力を経て、「UNHCR難民映画祭」(旧称「UNHCR WILL2LIVE Cinema」)や「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」等で上映される作品の字幕作成に、毎年取り組んでいます。
今回の担当作品『物語は終わらない~難民芸術家たちの革命~』は、ラボ創設から32本目の字幕提供映画です。2022年度履修生9名が字幕を作成しました。
この映画に携わる貴重な機会をくださった、国連 UNHCR 協会と日本映像翻訳アカデミーの関係者の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。また、別ページにて掲載されている監督インタビューの英文校閲をしていただいた本学部のマイケル・クシェル先生に心より感謝いたします。加えて、本編字幕作成にあたり、人名表記に関してご教示くださった上智大学の辻上奈美江先生、字幕に関する知識をご教示たまわりました日本映像翻訳アカデミーの桜井徹二先生、石井清猛先生に深く感謝申し上げます。そして、字幕制作および本ページ作成にあたり、ご指導いただいた映像翻訳ラボ担当教員の宮澤淳一先生に厚く御礼を申し上げ、感謝の意を表します。
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宮澤淳一研究室(映像翻訳ラボ)2022年度履修生
3年:金子芽衣 青葉茉莉
2年:丹野雄貴 山田羽菜 石井駿斗 千木良利奈 山内美由夏 宮石睦 任彩利