映画『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦』(Shadow Game, 2021) は、より良い生活と保護を求めて混乱の母国から逃れ、欧州の地を目指す10代の若者たちを追ったドキュメンタリーです。2021年10月、UNHCR Will2Live Cinema2021 での日本初公開にあたり、字幕を作成した青山学院大学映像翻訳ラボが、ブランケフォールト監督、ファンドリール監督のお二人に、電子メールを用いて独自インタビューを行いました。映画の制作背景や撮影の裏側など、さまざまな興味深いお話をうかがいましたので、本作品の視聴の前後に、特設解説ページと合わせてお読みいただければ幸いです。
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Q1. 数多い難民問題の中でも、この作品に登場するような自力で居場所を求める若者たちに焦点をあてたのはなぜですか?
A1. 数年前、ギリシャ領のレスボス島で、The Deal というEUトルコ間の難民対策協議をめぐるドキュメンタリーの撮影をしていた時のことです。島の中心にある町ミティリーニの港で、打ちのめされ気力を失っていた男の子がいました。話しかけてみると、ガンビア出身の15歳でムハンマドという名前の少年でした。子どもなので、それに応じた保護を受けられるはずなのに、書類上は大人として扱われており、モリア難民キャンプから出られません。そこで情報も医療もメンタルケアも法的支援も得られずにいたのです。「なぜこのようなことになっているのか?」と私たち取材班は自問しました。すべてのEU加盟国が難民条約と子どもの権利条約に批准しているにもかかわらず、なぜムハンマドの権利は奪われているのか? この出会いが私たちの調査の始まりだったのです。保護を求めてヨーロッパを目指す子どもたちに何が起きていて、なぜそのような子どもたちは単独で行動しているのか。子どもたちの視点から本作を作りたいと考えました。この旅に耐えなければならない事情は何なのでしょうか?
Q2. SK、モ、ヤシーンが、国境越えを「ゲーム」と呼んでいます。彼らは自発的にこの喩えを使っているのでしょうか? それともよく使われる表現なのでしょうか。実は最近、若者たちがこれを「ゲーム」にたとえている、という記事を読みました。この見解はどれほど普遍的なのでしょうか。
A2. アフガニスタンとパキスタン出身の男の子たちの口から初めてこの言葉を聞きました。彼らは常に「ゲーム」について話題にしていたのです。SKは私たちに「ゲーム」とは旅の苦難と向き合う方法だと話してくれました。平常心を保つために、旅ごとにレベル分けをし、より困難な「ゲーム」に挑戦します。これは臨機応変に対応するための仕組みなのです。その言葉を映画のタイトルのしたのは、子どもたちがよく使っていたし、さらに彼らの価値観をうまく表した言葉だったからです。別の男の子はこんなことも言っていました。「僕たちは影の中を動くんだ」と。子どもたちはいつも夜にゲームをしていて、さらにヨーロッパの影の世界を進んでいくので、「ゲーム」と影(シャドー)という言葉をつなげてこのタイトルにしました。
Q3. 国を逃れようとする若者たちの中では、いわゆる「ゲーム」をすることが一般的なのでしょうか? 正式な手続きを踏む人はいるのでしょうか?
A3. 子ども、大人、家族問わず、誰にとっても、安全な経路はほとんどありません。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)には、第三国定住プログラムがありますが、その支援を受けられる人は非常に限られています。
Q4. 若者たちの言葉にはたいへん現実味があり、印象的でした。出演者たちが語るシーンでは、彼らに自由に話してもらったのでしょうか? それとも監督が投げかけた質問に答えていたのでしょうか。
A4. もちろん、私たちから質問を投げかけたこともありましたが、そういう場面はほぼ削りました。彼らが私たちに話を聞かせてくれるのは、彼ら自身のためでした。過酷な経験をした若者たちは、自分たちの物語や考えを共有したがっていたのです。
Q5. ベルリン人権映画祭のインタビューの中で、彼らの危険な旅は、人々の目に映らない「影の世界」(shadow world)の中で起きていることだとおっしゃっていますね。この「影の世界」で起きていることは現実であり、世界中の人が知るべきであるのにかかわらず、この映画が作られるまで、あまり知られていなかったのはなぜなのでしょうか。
A5. ヨーロッパでは他の国と同様に、見て見ぬふりをしているのでしょう。ヨーロッパでの保護を求めて自分の国を逃れる人々の苦難は、私たちの目と鼻の先で起こっています。「光」と「影」が存在する場所として、最もはっきりと目に映るのがイタリアのヴェンティミリアです。少年たちが眠り、食事をし、生き延びる場所である橋は、有名なコートダジュールの街へと続いています。富裕層と貧困層がほんの数メートルの距離に存在しているのです。誰がこんな世界に足を踏み入れたいと思うでしょうか?
Q6. 旅を続けるための資金調達の方法は出演者によって違うようですが、どのような方法がいちばん一般的なのでしょうか?
A6. ウェスタンユニオンなどの送金会社を通じて家族からお金を受け取ることもあります。中には違法労働や売春をしたり、自分が密入国業者になってしまう人もいます。
Q7. 映画内では登場人物たちがスマートフォンを使用する場面が多く登場します。彼らにとってどれほど重要なものなのでしょうか?
A7. スマートフォンは電話以上のものです。旅の途中で家族や友人、密入国業者と連絡を取るためだけでなく、GPSを使って道を探すための、最も重要なライフラインなのです。もちろん、最近の若者と同じように、旅の記録のためにも使用していました。
Q8. 本編でモが、キャンプからの支給金が少ないために、違法にお金を稼いでいると言っていましたが、彼の他にも違法な労働をしていた若者はいたのでしょうか。また、それをしていると、庇護申請の結果に影響はあるのでしょうか?
A8. ドゥッラーブは密入国事業に関与しています。彼の庇護申請が却下されてしまったことは、おそらく彼が密入国事業によりいっそう関与することになった理由の1つです。彼はパキスタン人のため、庇護申請の審査を通過することは大変困難なのです。
Q9. ギリシャでSKたちの治療をしていたのは Mama Rose というボランティアだったそうですが、その他にも子どもの難民を手助けするボランティアはいましたか? それはどんなボランティア団体ですか? 若者たちにとってボランティア団体の支援を受けることは普通なことなのでしょうか。
A9. 幸運なことに、様々な規模の団体や、活動する場所を転々と移動をしながら子どもたちを支援する個人を含む多くの人々もいます。難民を助けるために世界中から、女性を中心としてたくさんの若者のボランティアが集まっていたのです。彼女たちがいなければ、難民が被る人道上の被害は、さらに深刻なものとなるでしょう。
Q10.この作品の続きとしてオンラインで見られるシロとジャノの短編作品で(Q12のShadow Game Projectを参照)、オランダでは18歳未満のシロが様々な支援を受けている一方、18歳以上のジャノは同じような支援が受けられず苦しんでいる様子が描かれています。他の国でも年齢による対応の違いはあるのでしょうか?
A10. 残念なことに、「18歳」という年齢の壁は多くのヨーロッパ諸国で大きな問題となっており、改善されるべきです。
Q11. 終盤にコロナ禍の若者の状況について触れられていましたが、撮影にも影響はありましたか?
A11. 1年近くSKに会いに行くことができず大変でした。(彼を密着した映画の制作に、現在も取り組んでいます。)また、数ヶ月間、編集者たちと一緒に作業することもできなかったのです。しかし最善を尽くして映画を仕上げました。
Q12. 公式サイトを拝見し、この映画は、Shadow Game Project というトランスメディア・プロジェクトの一環であることを知りました。フォトギャラリーや、「ゲーマー」たちのその後を追った短編ドキュメンタリーなどから構成されていますし、「私たちには何ができるか?」と呼びかけて、活動への賛同も呼びかけています。このプロジェクトは、『シャドー・ゲーム』という映画を作ることで発展したものなのですか? それとも、プロジェクト全体の中から今回の映画が生まれたのですか?
A12. 最初からすべてを計画していました。この映画を作ることは、私たちにとって映画を作ること以上の意味があります。若い難民に対する人々の見方を変え、何か行動を起こすことを促したいと思っています。つまり、Shadow Game Project は、難民の若者ではなく、ヨーロッパの人々を動かすためのプロジェクトなのです。現在のEUの庇護政策がいいと思いますか? ヨーロッパは1個の共同体なのに、そこに暮らす私たちは人間的価値をどこに求めているのでしょうか?
Q13. このテーマの活動は今後も続けるのですか? それとも何か違うプロジェクトもあるのでしょうか?
A13. ヨーロッパにおける、同伴者のいない難民の子どもたちに対する深刻な権利侵害を、公的・政治的な議題として取り上げたいと考えています。子どもたちの強さ、困難から立ち直る力、才能を伝えることで、彼らの人生に良い影響を与えたいのです。これを達成するためには、世間の人々や、政策を生み出す場である国連、欧州委員会、欧州議会などに、難民の若者たちの声を届けなくてはいけません。そのために、「移動する子どもたちを守る」(Protect Children on The Move)というキャンペーンを始めました。(www.change.org/protectchildrenonthemove)また、Shadow Game Project の公式サイトもぜひご覧ください。(www.shadowgame.eu)
問いと訳:映像翻訳ラボのメンバー
翻訳校閲:宮澤淳一
(電子メールによるインタビュー、2021年10月)
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エーフィエ・ブランケフォールト Eefje Blankevoort
ジャーナリスト。アムステルダム大学で歴史を専攻。2002年から2006年まで、定期的にイランで過ごしながら、勉学のかたわら、社会史国際研究所のためのアーカイブ収集や著書『ここでは何でもこっそりできる』の執筆に取り組んだ。現在、ジャーナリストとして幅広く活動し、記事や書籍の執筆、インタラクティブ・プロジェクトや展示会、ドキュメンタリー映画の制作を行っている。さらに、メズラーブ・ストーリーテリング・センターおよびオーディオ集団「無限の音」の理事も務めている。
エルス・ファン・ドリール Els van Driel
ドキュメンタリー映画作家。人権、移民、宗教問題を専門とする。若者たちの権利について描いたドキュメンタリー Mensjesrechten/Just Kids で、シネキッド映画祭2015の審査員賞を受賞。マルチメディア制作の The Asylummachine(2016年、オランダ映画祭で Gouden Kalf にノミネート)、EUとトルコ間の難民対策協議に関する作品 The Deal(2017)の共同監督を務めた。若者たちについてのドキュメンタリー作品には、How Ky became Niels(2015年にBanff Rockie 賞、2016年にPrix Jeunesse)、A year without my parents(2016年、シカゴ国際児童映画祭で児童・アダルト審査員賞)がある。
by the Student Translation Team, Aoyama Gakuin University, Tokyo, October 2021
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Q1. What led you to focus on unaccompanied children who fled from their own countries to enter Europe? Among many refugee problems, why did you choose this particular topic?
A1. A few years ago, we were filming on Lesbos for our documentary The Deal, about the EU-Turkey deal. In the harbor of Mytilini we saw a young boy, in complete despair. We talked to him and learned he was only 15, from Gambia and his name was Mohammed. As a child he was supposed to get protection, but he was registered as an adult, stuck in Camp Moria, and didn’t have any access to information, medical, psychological or juridical help. We asked ourselves how this could be possible. The EU member states have all signed the refugee treaty and the Convention on the Rights of the Child. Why was this boy robbed of his right? This encounter was the starting point for our research: what happens to children alone when they flee to Europe in search of protection? What does it mean to them to be alone all this time? We wanted to make this film completely from their perspective. What is it like for them to have to endure this journey?
Q2. SK, Mo, and Yaseen use the word “game” to express their illegal and dangerous attempts to cross borders. Did they start using this word voluntarily? Actually, we read some articles saying teenage “refugees” use the word as a metaphor for crossing borders. How common do you think it is among them? Did you choose the word for the title of the film because it is common or because you want people to know the expression?
A2. We first heard of this word from Afghan and Pakistani boys. They were constantly talking about “the game.” The way SK explains it to us is that it is a way to deal with the hardships of the journey. To keep sane, they think of their journey in different levels, they try to make it on the next game, level by level. It is in a way a coping mechanism. We used it as a title because indeed many teenagers use it, and it fits their perspective on the world. Another boy told us: “We move in the shadows.” We combined the word “game” with “shadow,” hence Shadow Game, because they always do the games at night. And they live and move through the shadow world of Europe.
Q3. Are there not any alternative (perhaps official and/or legal) ways for young people to escape their own countries to enter European countries instead of trying a “game”?
A3. No. There are (almost) no safe passages for young people, adults or families. There is the UNHCR resettlement program, but it is very very limited.
Q4. Did the teenage refugees talk spontaneously or were they answering questions from you and your colleagues? The words of the teenagers in the film were very realistic and impressive. We are interested in how the scenes were filmed.
A4. We asked them questions of course, but chose to almost not include them in the film. Their answers speak for themselves. They were very eager to share their stories and thoughts, because they themselves were shocked by what they had to go through.
Q5. In the interview at the Human Rights Film Festival Berlin (https://youtu.be/u3NBUQ1lvls), you described the situation of the “gamers” as a “shadow world.” Why do you think the reality of this “shadow world” remained relatively unknown around the world, until you made the film?
A5. I think in Europe, as in most places, we choose to look the other way. This hardship of people fleeing their countries, trying to find protection in Europe, is happening right under our nose. The place you can see the “upper” world and ”shadow” world together the clearest is in Ventimiglia, Italy. The bridge where the boys sleep, eat, survive, is the road that leads to the famous Cote D’Azur. Extreme richness and extreme needs are only a few meters apart. But who wants to descend in the shadow world?
Q6. In the film, you described various ways for the “gamers” to get money for travel expenses during their journey. Which method did you find to be the most common?
A6. They get money sometimes from their family back home through money transfer companies like Western Union. Some work (illegally) or even end up in prostitution or become smugglers themselves.
Q7. In the film, the boys are often seen using their smartphones. How important are smartphones for refugee children?
A7. A smartphone is much more than a phone. It is the most important lifeline: to keep in touch with people back home, friends on their journey, the smugglers, but also to find their way on GPS. And of course they used it to document their journey, like all (young) people do nowadays.
Q8. Are there other protagonists who earn their living illegally, like Mo? In the Shadow Game, Mo said he couldn’t get enough money from the camp, so he had no choice to commit illegal business. Will earning money illegally be a disadvantage to them when they make an asylum claim?
A8. Durrab is involved in smuggling. Durrab’s asylum claim was rejected, that’s probably one of the reasons he got more involved in smuggling. As a Pakistani, it is very hard to get an asylum status.
Q9. How common is it for teenage refugees to get support from volunteer organizations? Are there any other volunteer organizations to help teenage refugees besides the volunteer organization called Mama Rose who helped Waquas in Greece?
A9. Fortunately there are some smaller and bigger organizations and individuals helping children on the move. We noticed there are a lot of young volunteers, mainly women, from all around the world who help the refugees. Without them, the humanitarian suffering on their way would be even bigger.
Q10. In Jano and Shiro’s short documentary, Shiro was able to get enough support because he was a minor in the Netherlands, but Jano, who was over 18, was unable to receive similarly adequate support. In other countries, are there differences in the support that refugees receive depending on their ages?
A10. Yes, unfortunately, this line between 18- and 18+ is a big problem in many European countries. It should be changed.
Q11. Toward the end of the film, you touch upon how COVID-19 affected SK’s journey. Did COVID-19 affect your filmmaking as well?
A11. Yes, it was difficult in the sense that we could not go to see SK for almost 1 year (we are still working on his follow up film). And we couldn’t edit together with our editor for some months. But we made the best of it.
Q12. We read your official website, which says the film is a part of the transmedia projects called “Shadow Game Project”. The site has several pages, including a photo gallery and short documentaries of what happened later to the characters of the film. Visitors are encouraged to support it through the section named “What can we do?”. Was the project born after you made the film or was the film made as a part of the project?
A12. It was all intertwined from the beginning. Making this film is much more to us than just making a film. We want to change the perspective on these young refugees and we want to activate people to do something. In the end Shadow Game is not a project about these teenagers, but about us, Europeans. Do we want our EU asylum policy really to be this way? Where are our human values as a European community?
Q13. Do you plan to continue exploring the themes of the Shadow Game Project in your future activities? Or do you have any other projects lined up?
A13. We want to put the severe violations of the rights of unaccompanied refugee children in Europe on the public and political agenda. We want to influence the narrative about this group in a positive way, by showing their strength, resilience and talents. We want to achieve these goals by having their voices heard by the general public and in places where policies are made, for example The UN, EU Commission, EU parliament etc. That’s why we created the campaign Protect Children on The Move. www.change.org/protectchildrenonthemove. And also visit our website: www.shadowgame.eu
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Eefje Blankevoort
Eefje Blankevoort (1978) studied History at the University of Amsterdam. Between 2002 and 2006 she regularly spent time in Iran where she studied, compiled an archive for the International Institute of Social History and worked on her book Stiekem kan hier alles (You can do anything here in secret). Since then, Eefje has developed into an all-rounder in journalism, writing articles and books, as well as creating interactive projects, exhibitions and documentary films. Besides her work as a journalist, Eefje is a committee member of the Mezrab Storytelling Centre, and Grensloos Geluid (Sound without Borders).
Els van Driel
Els van Driel (Alkmaar, 1976) is an independent documentary filmmaker. She created the award-winning youth documentary series Mensjesrechten/Just Kids (Cinekid Filmfestival Gouden Kinderkast jury prize 2015), about children’s rights and was co-director of the multimedia production The Asylummachine (nominee Gouden Kalf interactive competition Dutch Filmfestival 2016) and The Deal, an analysis about the consequences of the EU-Turkey deal in 2017. In 2021 she co-directed Shadow Game, a multi media documentary project about unaccompanied refugee children in Europe. Els specializes in human rights, immigration and religion.
Amongst her prize winning youth documentaries are: How Ky Became Niels (Banff Rockie Award 2015, Prix Jeunesse 2016) & A Year without My Parents (Chicago International Children’s Filmfestival Children’s & Adult Jury’s Prize 2016).