世界難民の日

世界難民の日の基本情報

世界難民の日を理解する

世界難民の日は、毎年6月20日に国際機関によって定められた記念日です。 

この日は、世界中の難民に対する理解と支援を促進するために設けられ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が中心となって、難民問題に関する啓発活動を行っています。

世界各地で様々なイベントが開催され、難民が直面する課題や権利について認識を高める日です。 

難民については、遠い世界のどこかのことではなく、身近な存在として理解していく必要があります。

また世界難民の日は、難民支援に取り組む団体やNGOなどの活動に対して理解や支援を深める機会でもあります。

世界難民の日とはどんな日か

世界難民の日は、2000年12月に国連総会で決議されたものです。

6月20日という日付は、1951年の難民条約制定50周年を記念して制定されました。 

紛争や迫害から逃れてきた人々の勇気と強さを称えるとともに、難民問題に対する国際社会の関心を高める日となっています。

各国政府や国際機関、NGOなどが協力して、難民支援プログラムや啓発イベントを実施している日です。

また、難民本人が自分たちの経験や文化を共有する場も設けられ、社会との積極的な交流も促しています。

世界難民の日が制定された背景

世界難民の日が制定されたのは、20世紀後半から21世紀初頭にかけて世界的に増加し続ける難民問題を背景としています。 

第二次世界大戦後、ヨーロッパを中心に多くの難民が発生したことを受けて、1950年に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が設立されました。 

1990年代には、ルワンダ内戦やユーゴスラビア紛争など、世界各地で起きた紛争により多数の難民が発生しました。 

2000年代に入ってからも、イラク戦争やアフガニスタン紛争などにより難民は増加の一途をたどっていたのです。 

こうした状況を踏まえ、国際社会は難民問題への継続的な取り組みの重要性を認識し、特定の日を設けて啓発活動を行う必要性を感じるようになりました。

2000年12月4日、アフリカ統一機構(現アフリカ連合)の提案を受けて、国連総会は決議55/76を採択し、6月20日を「世界難民の日」と定めました。

国連総会の決議では、2001年から毎年この日を記念することを定めています。

世界難民の日の目的と意義

世界難民の日の主な目的は、難民問題に対する国際社会の認識を高め、難民の保護と支援に向けた取り組みを強化することです。 

世界難民の日を通じて、国際社会は難民が直面する様々な課題について理解を深めていき、難民の権利を守る活動に取り組んでいます。

難民は、故郷を離れ見知らぬ土地で新たな生活を始める際には、言語の壁、文化の違い、差別や偏見など数多くの困難にぶつかるのは避けられません。

世界難民の日はそんな難民の声に耳を傾け、新しい生活を始めやすくし、安心して暮らせるきっかけを作り出しているのです。

また、難民自身が持つ才能や能力、社会にもたらす影響についても、受け入れる側が理解しやすくなるでしょう。

世界難民の日の意義は国際社会の連帯と責任の象徴としても、大きなものとして捉えられています。

難民問題は一国だけでは解決できない国際的な課題であり、各国の積極的な協力がなくてはならないものです。

この日を契機に、各国政府や国際機関、市民社会が連携して、難民の保護と支援に向けた具体的な行動へと進むよう期待されています。

世界難民の日の歴史

世界難民の歩み

世界難民の日は2000年に国連によって正式に制定されましたが、難民問題への国際的な取り組みの歴史はさらに長いものがあります。 

第二次世界大戦後の大規模な難民危機から始まり、国際社会は徐々に難民の権利と保護に関する制度を整えてきました。 

世界難民の日の設立は、こうした長年の取り組みの一環として位置づけられています。

世界難民の日は年々重要性を増し、世界中でより多くの人々が難民問題に関心を持つようになるきっかけとなり、難民支援の必要性と尊厳を守る大切さが広く認識されるようになりました。

世界難民の日の変遷と発展

世界難民の日は、初期の頃は主にUNHCRや関連機関による小規模なイベントが中心でした。

その後、徐々に多くの国々が公式行事を開催するようになっています。 

また、メディアの注目度も年々高まり、難民問題に対する社会的関心を喚起する機会でもあります。

2010年代に入ると、ソーシャルメディアの普及により、世界難民の日のキャンペーンはさらに広範囲に広がるようになりました。

UNHCRはハッシュタグキャンペーンや著名人による支援の呼びかけなど、デジタル時代に適応した啓発活動を展開しています。 

また、難民自身が主体となって自らの経験を語るイベントもあり、当事者の声を直接伝える機会が増加しました。

近年では、世界難民の日を含む「難民週間」として複数日にわたる行事を実施する国も増えています。

日本では6月20日の世界難民の日を中心に前後1週間を「難民週間」として、様々な啓発活動やイベントが行われています。

様々な取り組みにより、一日限りの記念日から、より持続的で包括的な啓発活動へと発展してきました。

世界難民の日の過去のテーマとキャンペーン

世界難民の日は毎年特定のテーマを設定し、テーマに沿ったキャンペーンを展開してきました。 

テーマは、その時々の国際情勢や難民を取り巻く状況を反映したものとなっています。 

例えば、2016年のテーマは「We stand together with refugees」で、難民との連帯を呼びかけるキャンペーンが世界中で実施されました。

2017年には「Embracing Refugees to celebrate our Common Humanity」と題し、難民との共生や包摂を訴える活動が行われました。

2018年のテーマは「Now More Than Ever, We Need to Stand  with refugees」(今こそ難民と共に立つ時)で、世界的な難民数の増加に対する懸念が反映されるものでした。

2019年には「Take A Step on World Refugee day」をテーマに、難民と共に歩むことの大切さを強調するキャンペーンが展開されました。

2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を背景に、より困難な状況に置かれた難民への支援の必要性を訴えるテーマが採用されています。

2020年のテーマは「Every Actions Counts」(すべての行動が重要)で、誰もが難民支援に貢献できることを強調しました。 

2021年には「Together we can achive anything」(共になんでも達成できる)をテーマに、コロナ禍からの回復における難民との共生の重要性が訴えられたのです。

年次テーマを通じて、世界難民の日は時代に応じた課題に焦点を当て、国際社会により積極的な行動を促す役割を果たしてきました。

世界の難民問題の現状

難民受け入れ国の課題

世界の難民問題は21世紀に入り、さらに複雑化・深刻化しています。 

紛争の長期化や新たな紛争、政治的迫害、干ばつのような気候変動など様々な要因が絡み合い、故郷を追われる人々の数は過去最高レベルに達しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によれば、世界で強制移動を強いられている人々の数は2022年には1億人を超え、歴史的にみても第二次世界大戦以降で最悪の数字となりました。 

難民危機は特定の地域だけの問題ではありません。

難民が発生する地域は偏りがあるものの、影響は周辺国だけにとどまらず、世界全体が取り組むべき人道的課題となっています。 

難民の定義と種類

難民(refugee)の定義は、1951年の「難民の地位に関する条約」とその後の議定書で明確に規定されています。 

「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖により、国籍国の外にいる者」

条約によれば、難民は上記のように定義されています。

条約に基づき、UNHCRは各国政府や関連機関と協力して難民認定と保護を行っています。

難民とよく混同される概念に「国内避難民(IDP:Internally Displaced Persons)」があります。

国内避難民は難民と同様の理由で避難を余儀なくされた人たちですが、国境を越えずに自国内で避難している人々を指します。

法的な保護の枠組みが難民と異なるため、しばしば十分な支援を受けられません。

また、「庇護申請者(asylum seeker)」は、難民としての認定を求めて他国に保護を申請している状態の人です。

審査の結果によって難民として認定されるか否かが決まります。

さらに近年は、「気候難民」や「環境難民」と呼ばれる、気候変動や環境破壊によって住む場所を追われた人々も増加中です。

しかし、従来の難民の定義に機構難民は含まれないため、保護の枠組みが不十分という課題があります。

世界の難民数と分布状況

UNHCRの2024年半ばの統計によると、世界では約3,690万人が難民として認定されており、さらに国内避難民は5,100万人を超えています。 

また、庇護申請者は約450万人とされています。 

世界で強制移動を強いられている人々の総数は1億1,730万人に達しています。

難民の85%以上は開発途上国で生活しており、先進国に受け入れられているのは全体の約15%に過ぎません。 

特に、難民発生国の隣接国が多くの難民を受け入れる傾向があります。 

トルコは約300万人以上の難民を抱え、世界最大の難民受入国です。 次いで、コロンビア、ウガンダ、パキスタン、ドイツなどが多くの難民を受け入れています。

難民の約半数は18歳未満の子どもであり、保護と支援が必要な存在です。 

また、女性や少女も性暴力や人身売買などのリスクにさらされやすく、特別な保護や配慮が求められます。

さらに、都市部に居住する難民が増加傾向にあり、従来のキャンプ中心の支援から就労支援や社会統合など都市難民への支援へと、支援の形も変化しています。

主な難民発生地域と原因

現在、最も多くの難民を生み出している国はシリアです。 2011年に始まった内戦により、約670万人のシリア人が国外に避難し、さらに多くの人々が国内避難民となっています。 

旧政権の崩壊により内戦は終結し、2025年3月の時点で30万人以上が帰国を果たしたものの、難民の帰国がさらに進むにはまだまだ時間も要するでしょう。

次いで、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマーなども主要な難民発生国です。

難民が発生する主な原因として、武力紛争が最も大きなものといわれ、シリア、イエメン、南スーダンなどでの内戦や地域紛争は、大規模な避難を引き起こしている状態です。 

政治的迫害や人権侵害も重要な要因です。 特定の民族や宗教集団に対する組織的な弾圧が、ミャンマーのロヒンギャやアフガニスタンの少数派などの避難につながっています。

また、近年では気候変動の影響も無視できません。

干ばつや洪水などの極端な気象現象が農業や生活基盤を破壊し、人々の移動を促す要因となっています。 

サハラ以南のアフリカや南アジアでは、気候変動と紛争が複合的に作用して紛争が大きくなり、難民問題を悪化させています。

経済的困窮も避難の背景にありますが、経済移民と難民は区別されることが多く、保護の枠組みも同一ではないのです。

経済移民は難民条約の保護の対象とはなりません。

ただし実状としては経済的な困窮の原因が紛争や迫害のケースもあり、複数の要因が絡み合っていることが多く、単純に区別することは困難です。

難民受け入れ国の課題

難民を受け入れる国々は数多くの課題に直面しています。

まず、経済的負担の問題として、難民の住居、食料、医療、教育などの基本的ニーズを満たすためには大きな財政支出が必要です。 

開発途上国では、自国民への社会保障も限られる中で難民支援を行わなければなりません。

社会統合も深刻な課題で、言語や文化の違いから、難民が現地社会に溶け込むことは容易ではありません。 

また、難民と地元住民との間に摩擦が生じ、就労機会や社会サービスをめぐる競合が、排外主義的感情を煽り社会的な緊張を生み出す可能性も含んでいます。

政治的な側面も無視できません。

難民受け入れは国内政治において度々論争の的となり、排外主義的な政党や運動の台頭につながる状況も実際に起こっています。

欧州では2015年以降の「難民危機」を契機に、移民政策の厳格化や国境管理の強化が進められてきました。

さらに、難民認定手続きの公正性と効率性の確保も課題です。

多くの国では難民認定の申請から決定までに長い時間がかかり、その間申請者は不安定な状況に置かれます。 

迅速な手続きと公正な審査の両立は容易ではなく、各国は制度の改善に取り組んでいます。

日本における難民支援の取り組み

日本の難民支援

日本の難民に対する取り組みは、国際的な基準と比較するとやや独自の道を歩んでいるといえるでしょう。

日本は1981年に「難民の地位に関する条約」に加入し、難民認定制度を設けていますが、実際の認定数は先進国の中でも極めて少ない状況です。

一方で、経済的な国際貢献としては、UNHCRなどの国際機関への資金提供を通じて世界の難民支援に貢献しています。

また、近年ではNPOやNGOなどの民間団体による草の根的な支援活動が活発化しています。

生活支援、法律相談、言語教育、就労支援など難民への直接的な支援や社会的認知の向上に努めています。 

世界難民の日に際しても、日本各地で様々な啓発イベントが開催され、難民問題への理解を深める取り組みが行われています。

日本の難民受け入れ状況

日本の難民認定数は、国際的に見て極めて低い水準です。

法務省の統計によれば、近年の日本における難民認定者数は年によって変動はあるものの、年間数十人程度で、認定率は数パーセント以下となっています。 

2021年の法務省の発表データでは、3,936件の申請に対し、認定されたのはわずか74人(認定率約1.9%)でした。 

国際的に見ても著しく低い数字といえるでしょう。

日本で認定される難民の出身国は、ミャンマー、トルコ、イラン、アフガニスタンなどが中心となっています。

また、正式な難民認定には至らないものの、人道的配慮により在留を特別に許可されるケースも一定数存在します。 

「人道的配慮」による在留許可は、難民条約上の難民の定義には該当していません。

しかし、本国への帰国が困難な事情がある人に対して与えられるものです。

日本における難民申請者数は、全体的に減少傾向にあるといわれています。

世界的な難民危機の状況を考えると、認定基準や手続きの透明性など日本の受け入れ体制のさらなる整備は必須となるでしょう。

日本政府の難民政策と支援

日本政府の難民政策は、主に出入国在留管理庁(入管庁)を中心に実施されています。 

難民認定制度は1981年の難民条約加入を機に導入されて以降、数度の制度改正が行われてきました。 

2018年には難民認定制度の運用の見直しが行われ、迅速に処理すべき案件の類型化などが図られましたが、依然として認定基準の厳格さが指摘されています。

日本政府による難民支援に、第三国定住プログラムの実施があります。 

このプログラムは、UNHCRが認定した難民を第三国である日本が受け入れるもので、2010年から始まりました。

当初はミャンマー難民を対象としていましたが、現在はアジア地域の難民全般に対象を拡大しています。 

しかし、その受け入れ人数は年間数十人程度と限定的です。

また、海外の難民に対しては、UNHCRをはじめとする国際機関への資金拠出を通じた支援を積極的に行っています。 

日本はUNHCRの主要拠出国の一つであり、資金面での国際貢献は評価されています。 

一方で、国内における難民の受け入れと支援については、さらなる改善を求める声も上がっています。

民間団体による難民支援活動

日本国内では、多くの非営利団体が難民支援活動を行っています。 

難民支援協会(JAR)は1999年に設立された団体で、難民への法的支援や生活相談、就労支援などを実施しています。

また、難民事業本部(RHQ)は、条約難民や第三国定住難民の日本での定住を支援するプログラムを実施している団体です。

国際移住機関(IOM)は移民と難民に関する国際的な機関で、その日本事務所は、難民の第三国定住や自主帰還などのプログラムを支援しています。 

また、全国難民弁護団連絡会議は、難民申請者への法的支援を専門的に行っている弁護士のネットワークです。

近年では、民間企業が難民支援に参画する動きも増加しています。

難民採用プログラムを導入する企業や、難民が作った製品を販売する取り組みなど、ビジネスを通じた支援活動も広がりを見せています。

また、大学など教育機関による難民学生の受け入れプログラムも徐々に増え、様々な教育機会が提供されています。

民間団体の活動は、政府の支援が限られる中で、難民への直接的な支援となり今後ますます不可欠なものとなっていくでしょう。

難民申請者が直面する問題

日本における難民申請者は、申請中の長期にわたる不安定な法的地位や生活していく難しさを抱えています。

まず、難民認定の審査期間が長期化する傾向があり、その間の生活基盤の確保は大きな課題です。 

原則として申請から6か月間は就労が認められないため、生活に困窮するケースが少なくありません。

また、難民申請者向けの公的支援は限定的で、保護費の支給や宿泊施設の提供などがありますが、受給条件が厳しく、実際に利用できる人は申請者全体の一部にとどまっています。 

医療へのアクセスも制限されており、健康保険に加入できない申請者は高額な医療費を自己負担しなければなりません。

言語や文化の壁も大きな障壁です。 日本語習得の機会が限られているせいで、社会保障や行政サービスへのアクセスや地域社会との交流はスムーズに進まない場合も多いといえます。

また、難民に対する社会的認知や理解も十分とは言えず、偏見や差別に遭う方もいます。

さらに、再申請や不服申し立てを繰り返す間に入国管理施設に収容されるケースもあり、長期収容の問題も指摘されています。 

難民申請者が直面する問題を改善するため、難民認定制度の改革や審査期間の短縮、申請中の生活支援や医療支援の充実などは差し迫った課題といえるでしょう。

世界難民の日の記念行事

世界難民の日の記念行事

世界難民の日に国連機関や各国政府、市民団体などが連携して行う様々な記念行事は、難民問題への理解を深め、支援の輪を広げる目的を持ちます。

世界各地で文化イベントやシンポジウム、ワークショップなどを通じて、難民の声に耳を傾け、彼らの経験や文化を理解するための多様な活動が実施されています。

また、デジタル技術の発達により、オンラインでのイベント等への参加も容易になり、地域的な制約を超えた取り組みとなりつつあるところです。

インターネットを使った活動であれば、より多くの人々が世界難民の日のイベントなどに参加し、支援を表明しやすくなります。

記念行事は、難民問題を身近な課題として捉え、個人レベルでも具体的に寄付やボランティア活動などの行動を促す側面も持っています。

国連主催の世界難民の日のイベント内容

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、毎年世界難民の日に合わせた国際的なイベントの主催者です。

ジュネーブの国連本部や各国の国連施設では、その年のテーマに沿った特別セレモニーが開催されています。 

セレモニーの具体的な内容は、国連事務総長や難民高等弁務官による特別メッセージの発表、著名人による講演、難民自身による体験談の共有などです。

UNHCRはまた、世界難民の日に合わせて年次報告書「グローバル・トレンド」を発表し、世界の難民状況に関する最新データと分析を提供しています。 

また、芸術を通じた難民問題への関心を喚起する機会として写真展や映画祭も行っています。

近年では、国連本部でのハイレベル会合も開催され、各国政府代表や国際機関、市民社会の代表が集まり、難民問題に対する国際協力の在り方について議論されています。

会合では、難民受け入れ支援などの枠組みである「難民グローバル・コンパクト」の実施状況が確認されたり、新たな支援の誓約が行われたりしています。

日本国内で行われる啓発活動

日本国内で展開されているUNHCR駐日事務所が中心となった、様々な啓発活動を見ておきましょう。 

東京や大阪などの大都市では、学術機関や市民団体主催の難民をテーマにしたシンポジウムや講演会が行われ、日本における難民問題について考え、議論する場となっています。

また、難民支援団体は街頭キャンペーンやチャリティーイベントも行っています。

教育機関での取り組みも活発で、大学や高校では難民問題に関する特別授業や研究発表会が実施されています。 

UNHCRと文部科学省が協力して作成した教材「難民について考えよう」を通じ、意識啓発が図られています。

教育活動が若い世代の難民問題への理解を深める上での役割は大きいものです。

メディアを通じた啓発では、NHKをはじめとするテレビ局や新聞社は、世界難民の日に合わせて特集番組や記事を発表し、難民問題への関心を喚起しています。

また、日本で暮らす難民や支援者によるトークイベントや文化交流会も各地で開催され、難民と直接交流する機会も相互理解を深めるものでしょう。

近年では、「難民映画祭」や「難民アートプロジェクト」など、文化・芸術を通じた啓発活動も増えています。

言葉だけよりも文化的な表現は、より広い層に難民問題を伝える方法だといえます。

世界難民の日の各取り組みへのオンライン参加方法

デジタル技術の発達により、世界難民の日の取り組みへのオンライン参加は容易になりました。 

UNHCRのグローバルウェブサイトでは、世界難民の日に合わせた特設ページが開設され、世界各地のイベント情報やデジタルキャンペーンへの参加方法が紹介されています。 

SNSでは「#WorldRefugeeDay」や「#難民の日」などのハッシュタグを使ったキャンペーンが展開されているので、誰でも簡単に参加できます。

オンラインセミナーやウェビナーも多数開催されており、インターネット経由で難民問題の専門家や難民自身による講演を視聴可能です。 

またバーチャル展示会や3D体験コンテンツなど、新しい技術を活用した啓発活動も増え、より深い理解を促される試みがなされています。

UNHCRや支援団体のニュースレターに登録しておけば、難民問題に関する最新情報や支援の方法を定期的に受け取れます。

他にも、オンライン募金プラットフォームを通じた難民支援プロジェクトへの寄付、オンラインボランティアとして翻訳や広報活動に参加するなどデジタルでより容易に援助できる方法が増えています。

地域で開催される難民への支援イベント

世界難民の日には、全国各地の地域コミュニティでも様々な支援イベントを開催しています。

地方自治体や国際交流協会が主催する難民理解講座や交流会は、地域住民と難民との相互理解を促進する絶好の機会です。 

また、難民出身者が講師となる料理教室や文化紹介イベントも人気を集めています。

チャリティーコンサートやバザーなど、支援金を集めるためのイベントは、難民自身が制作した工芸品や料理が販売されるなど、難民の自立支援にもつながっています。

スポーツイベントも交流の場として活用され、サッカーや陸上競技など、言葉の壁を超えて参加できる種目が特に人気です。

大学や高校では、学生主体の難民支援活動が行われており、学園祭やスポーツ大会に難民を招待したり、難民キャンプへの支援物資を集めたりする取り組みが行われています。 

また、図書館や公民館では、難民をテーマにした本の展示や読書会など、難民問題について学ぶ機会の提供もあります。

世界難民の日に行われる地域に根差したイベントは、地域住民の主体的な関わりを促すものです。

難民問題をグローバルな課題としてだけでなく、より身近な地域の課題として考えるきっかけとなっています。 

イベントの情報はお住まいの地域の地方自治体や国際交流協会のウェブサイト、地域の掲示板などで確認してください。

難民支援に関わる国際機関

難民支援に関わる国際機関

難民問題は一国だけでは解決できない国際的な課題です。

国だけに限らず、国境を越えて様々な国際機関が連携して対応に当たっています。 

難民の保護、支援だけにとどまらず、恒久的な解決策の実現に向けて積極的な活動を見せているのが国際機関といえるでしょう。

国際機関には、国連専門機関であるUNHCRを中心に、WFP(世界食糧計画)、WHO(世界保健機関)、UNICEF(国連児童基金)などがあります。

さらに各国政府や非政府組織(NGO)が協力して難民支援のネットワークが形成されています。

難民支援に関わる国際機関の活動は、食料や水の提供といった人道的支援から教育や法的保護なども含め、長期的な開発支援まで多岐にわたり、多岐にわたります。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の役割

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は第二次世界大戦後1950年に設立されました。

難民保護と支援を専門とする国連機関です。 

UNHCRの主要な任務は、難民の国際的保護を確保し、各国政府やその他の機関と協力して難民問題の恒久的解決を模索することです。 

具体的には、難民の法的保護、緊急支援物資の提供、難民キャンプの運営支援、自発的帰還の促進、第三国定住の調整などを行っています。

UNHCRは現在、134か国で活動を展開し、約1万7千人のスタッフが世界中の難民支援に従事しています。

年間予算は約90億ドル(約1兆円)に上り、各国政府や民間からの任意拠出金によって運営されています。 

日本もUNHCRの主要拠出国の一つであり、2022年には約1億2千万ドル(約130億円)を拠出しました。

UNHCRの役割は難民認定制度の支援だけではありません。

難民認定においてもUNHCRは重要な役割を果たしており、国内に難民制度がないあるいは不十分な国で、UNHCRが独自の難民認定(マンデート難民)を行っています。 

難民支援に取り組むNGO団体

国際的なNGO団体も難民支援においてなくてはならない存在といえるでしょう。

国際救済委員会(IRC)は1933年に設立された団体で、40か国以上で難民や国内避難民への緊急人道支援を提供しています。 

特に教育、医療、経済的自立支援などの分野で専門的なプログラムを実施しています。

国境なき医師団(MSF)は1971年に設立され、紛争地域や難民キャンプで医療支援活動を行っています。 

主な活動は緊急医療チームを派遣し、外傷治療や感染症対策、精神保健サービスなど、難民の健康を守るためのものです。

オックスファム(Oxfam)は貧困削減を目的とした国際NGOで、難民キャンプでの水・衛生設備の提供や食料配給などの支援活動を行っています。 

また、難民の権利擁護や政策提言も積極的に行っているNGOとしても認知されています。

セーブ・ザ・チルドレンは1919年に設立された子どもの権利擁護団体で、難民の子どもたちへの教育支援や心理社会的ケアを提供しています。

教育へのアクセスが制限されている状況で「学習の継続」を重視したプログラムを実施しています。

国際NGOに加え、地域に根ざした現地NGOも難民支援において不可欠です。

現地NGOは地域の文化や言語に精通しているため、難民コミュニティとの信頼関係を築きながら効果的な支援ができます。

各国政府の連携と協力体制

難民問題に対する国際的な協力体制は、2018年に採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」によって強化されました。 

「難民に関するグローバル・コンパクト」には法的拘束力はありません。

ですが、難民受入国の負担軽減、難民の自立促進、第三国定住の拡大、安全で尊厳ある帰還条件の整備という4つの目標を掲げ、国際協力の枠組みを提供しています。

主要な難民受入国と支援国が参加する「難民フォーラム」が定期的に開催され、各国の取り組みや好事例の共有、新たな支援の誓約などが行われています。 

また、地域レベルでの協力体制も構築されており、シリア難民危機に対応するための「シリア危機地域対応計画」の、トルコ、レバノン、ヨルダンなどの受入国と支援国の連携もその一例です。

G7やG20などの国際会議でも難民問題が議題に上り、国際的な資金拠出や受入枠の拡大などが話し合われています。 

日本も「平和と安全」「経済成長」「人間の安全保障」を柱とする独自の支援アプローチを掲げ、国際的な協力体制に参画しています。

民間セクターとの連携も進んでおり、「グローバル難民フォーラム」では企業や財団による難民支援の誓約も行われています。 

難民の雇用創出や教育支援において、民間企業の参画が拡大しているため、各種の連携と協力体制は、難民問題の複雑性に対応するために避けては通れません。

個人でできる難民支援の方法

個人でできる難民支援

個人レベルで難民支援に参加する方法は、寄付だけではありません。

難民支援での貢献は、小さな行動の積み重ねが難民の生活を改善し、国際社会全体の意識向上につながります。 

難民支援は専門家だけの仕事ではなく、誰もが自分の状況や関心に合わせて参加できる活動です。

資金面での貢献から時間や専門知識、スキルの提供、さらには日常的な意識改革まで、支援の形は多岐にわたります。 

個人でできる具体的な難民支援の方法を紹介しますので、自分に適した支援のかたちを見つけてください。

寄付を通じた支援の仕方

寄付は最も手軽で効果的な難民支援の一つです。 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の日本支部である「UNHCR協会」では、オンラインでの寄付を受け付けています。

毎月定額を寄付する「マンスリーサポーター」制度や、一回限りの寄付も可能です。

寄付金は難民キャンプでの食料や住居の提供、医療サービス、教育支援などに使われます。

国際NGOへの寄付も有効な選択肢です。 

難民支援協会(JAR)や国境なき医師団(MSF)、セーブ・ザ・チルドレンなどの団体は、それぞれ特色ある難民支援プログラムを実施しています。

各団体のウェブサイトで寄付方法や使途について詳しく説明されているので、自分の関心分野に合わせて選んでください。

クラウドファンディングを通じた難民支援プロジェクトへの参加も増えています。 

難民起業家の事業支援や、特定の難民コミュニティの教育プロジェクトなど、具体的な目標を持ったプロジェクトを直接支援できます。 

「READYFOR」や「Kickstarter」などのプラットフォームで「難民支援」で検索すると、様々なプロジェクトが見つかります。

寄付の際は、団体の信頼性や透明性を確認してください。

公式ウェブサイトで年次報告書や財務情報が公開されているか、実績や評価はどうかなどをチェックしましょう。 

また、寄付金控除の対象となる認定NPO法人や公益財団法人への寄付は、税制上の控除対象です。

ボランティア活動への参加方法

時間や専門知識を活かした直接的な支援として、ボランティア活動への参加があります。

国内では、難民支援協会(JAR)や難民事業本部(RHQ)などの団体がボランティア募集中です。

日本語教師、翻訳・通訳、法律相談、就労支援、イベント運営など、様々な分野でボランティアが必要とされています。

オンラインボランティアの機会も増えています。 UNHCRの「デジタルボランティア」プログラムでは、SNSでの情報拡散や翻訳、データ入力などをリモートで行えます。 

オンラインなので、時間や場所の制約がある人でも参加しやすい形態です。

プロボノ(専門的なスキルを活かした無償奉仕)も重要なボランティア活動になります。

法律、医療、IT、教育、デザインなどの専門知識を持っていれば、技能を難民支援に役立てられます。 

例えば、難民のための法律相談会や健康診断、ウェブサイト作成支援などが行われています。

ボランティア活動に参加する前に、関連団体の説明会やオリエンテーションに参加するとよいでしょう。

難民支援の基礎知識や活動の心構えについて学んでおくと、より有意義な支援活動ができるようになります。 

また、継続的な参加が難しい場合は、週末や祝日に開催される単発のイベントスタッフとして参加する方法もあります。

難民問題の理解と啓発活動

難民問題について学び、周囲に伝えることも支援活動です。

UNHCRや支援団体のウェブサイト、書籍、ドキュメンタリー映画などを通じて、難民問題の現状や背景について理解を深めましょう。 

世界難民の日に合わせて開催されるシンポジウムや講演会、映画祭などのイベントへの参加も効果的です。

SNSを活用した情報発信も個人でできる啓発活動です。 

信頼性の高い情報源の記事や動画をシェア、ハッシュタグキャンペーンへの参加は、難民問題の認知度向上につながります。 

学校や職場、地域コミュニティでの勉強会や報告会の開催も有効です。 

UNHCRは教育現場向けの教材「難民について考えよう」を無料で提供しており、教材を活用して授業やワークショップを行えます。

難民出身者を招いた交流会や講演会の企画も、生の声を伝える貴重な機会です。

難民は「支援の対象」としてだけでなく、独自の経験や能力を持った個人として尊重する視点も大切です。

啓発活動では、難民の抱える困難だけでなく、彼らの勇気や才能、受入社会への貢献といったポジティブな側面も伝えられるようにしましょう。

日常生活でできる難民支援

日常生活の中でも、難民支援につながる選択肢は数多くあります。 

難民や元難民が製作した商品の購入は、経済的自立を支援する直接的な方法です。

「難民アートストア」や「クラフトエイド」などのプラットフォームでは、難民アーティストによる作品が販売されています。

難民料理教室や難民レストランを訪れるのも支援の一つです。

難民が母国の料理を提供するイベントやレストランが各地で開催されており、食を通じた文化交流と経済支援の場となっています。 

東京や大阪などの大都市では、難民シェフによるポップアップレストランが定期的に開催されています。

直接的な支援ではないのですが、近年増えている難民雇用に積極的な企業の商品やサービスを選ぶのも良い方法です。

企業の商品を購入すると、難民の就労機会創出に貢献できます。 

企業のCSR活動やサステナビリティレポートなどで、難民支援への取り組みを確認してください。

他には、地域に住む難民との交流も大切な支援です。

国際交流イベントや地域の日本語教室などに参加して、難民と直接交流する機会を持ちましょう。 

言語や文化の壁を超えた人間関係の構築は、難民の社会統合を促進します。

日常的な選択や行動は、一見小さなことでも、積み重なれば大きな影響を生み出します。

個人の意識と行動の変化が、社会全体の変化につながるのです。

難民問題の解決に向けた課題

難民問題の解決に向けた課題

難民問題の解決には、包括的な方法に目を向ける必要があります。

単なる人道支援だけでなく、政治的、法的、社会的、経済的側面からの取り組みが求められています。

国際社会が直面している難民危機は、一時的な現象ではなく構造的な問題であり、持続可能な解決策の模索が不可欠といえるでしょう。

世界難民の日は、難民問題の解決に向けた課題を再確認し、国際社会の連帯を強化する機会となっています。 

ここでは、難民問題の解決に向けた主要な課題と、それに対する取り組みの方向性について考えます。

難民保護の国際的枠組みの強化

現在の難民保護の国際的枠組みは、1951年の「難民の地位に関する条約」とその1967年の議定書を基盤としたものです。 

しかし、この枠組みは70年以上前に作られたもので、現代の複雑な難民状況に十分に対応できていない面があります。

特に気候変動による移動や、国内避難民の保護など、従来の「難民」定義に当てはまらない強制移動のケースが増加しています。

国際的な難民保護体制の強化には、難民認定基準の調和や手続きの効率化が必要です。 

現状では、各国の難民認定率には大きな差があり、同じ状況の難民申請者でも国によって異なる判断がなされています。 

また、長期化する難民認定手続きは、申請者に不必要な苦痛を与えるだけでなく、受入国の行政負担も増大させています。

2018年に採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」は、新たな国際協力の枠組みですが、法的拘束力がなく実施は各国の政治的意思に委ねられています。

今後は、実施状況のモニタリングと、より具体的な行動計画の策定が必須でしょう。

さらに国際的な責任分担の不均衡も大きな課題のひとつです。

世界の難民の85%以上が開発途上国で生活しており、限られた資源を持つ国々に過度な負担がかかっています。

難民受け入れの公平な分担と、受入国への十分な支援の提供がなくては取り組みは続きません。

難民の社会への統合と共生

難民の社会統合は、難民問題を解決するために極めて重要ですが、多くの課題を抱えています。 

言語や文化の違い、教育や就労の機会へのアクセス不足、社会的孤立などが、難民の統合を阻む要因として挙げられるでしょう。

また受入社会の側も、難民に対する偏見や不安、文化的衝突への懸念が大きいです。

効果的な社会統合政策には、言語教育や職業訓練などの実用的支援と、相互理解や文化的橋渡しを促進する取り組みの両方が必要です。 

ドイツでは、難民の社会統合を促進するために「統合コース」を設け、言語教育と社会オリエンテーションを組み合わせた包括的なプログラムを提供しています。

難民の潜在能力を活かす就労支援も必須ですが、多くの難民は専門的なスキルや経験を持っているにもかかわらず資格の認証や言語の壁により活かせていません。

資格認証システムの柔軟化や、難民特有のニーズに対応した就労支援プログラムの拡充が求められています。

地域コミュニティレベルでの交流促進も社会統合の鍵です。

難民と地域住民が出会い、互いの文化や経験を共有できる場を設け、相互理解と信頼関係を構築していく必要があるでしょう。

学校、宗教施設、スポーツクラブなどを活用した草の根の交流活動をさらに各地で行っていきたいものです。

また、難民自身のエンパワーメントと主体性の尊重もないがしろにしてはいけません。 

難民を単なる「支援の対象」ではなく、社会の積極的な参加者として位置づけ、彼らの声を政策立案やプログラムに反映させるのは大切なポイントです。

難民コミュニティのリーダーや組織との協働は、より効果的な統合支援につながります。

難民発生の根本原因への対応

難民問題の根本的解決のためには、難民発生の原因そのものにも対処しなければなりません。

紛争や迫害、人権侵害など、難民の発生原因は複雑で多岐にわたりますが、国際社会の協調的な取り組みによって改善の可能性を大いに秘めているといえます。

紛争予防と平和構築は最も直接的な手段です。

国連を中心とした平和維持活動や仲介外交、紛争国の治安部門改革や法の支配の強化などが、紛争による強制移動を防止できるでしょう。 

政治的迫害や少数派への差別が難民発生の主要因となっている地域では、人権状況改善や市民社会の育成、民主的制度の構築支援が効果的です。 

国際社会による継続的な人権状況の監視と、必要に応じた政治的・経済的圧力の行使も検討すべき選択肢といえます。

経済発展と貧困削減も長期的な解決策となります。

持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みは、難民発生の社会経済的要因の改善につながるものです。

教育機会の拡大や雇用創出、格差是正などが、若者の将来展望を開き、不安定な移動を防止する効果があります。

最後に、気候変動への対応も今後ますます重視されるものです。

干ばつや洪水などの気象現象が増加する中、気候変動対策と防災・減災の取り組みが、環境要因による難民の発生を防ぐでしょう。

パリ協定の着実な実施と、気候変動の影響を受けやすい地域への適応支援が急務です。

持続可能な難民支援の実現

現在の難民支援システムは、短期的な緊急支援に重点が置かれ、長期化する難民状況に十分に対応できていない側面があります。 

世界の難民の約3分の2は「長期化した難民状況」にあり、5年以上、時には数十年にわたって難民の地位にとどまったままです。

従来、難民支援は人道支援の文脈で行われ、長期的な開発の視点が不足していました。 

しかし近年、「人道・開発・平和のネクサス」という手段が注目され、短期的な救命活動から長期的な自立支援まで一貫した取り組みが模索されています。

難民を取り巻く地域全体を視野に入れた包括的な支援も大切です。

UNHCRの「包括的難民対応枠組み」は、包括的な支援の一例されています。

他には、革新的な資金調達方法の開発も課題です。 

従来の政府拠出金や民間寄付に加え、社会的投資やインパクト債、官民パートナーシップなど、多様な資金源を活用した持続可能な支援モデルの構築が求められています。

デジタル技術の活用も、支援の効率化と質を向上させると大きな期待が寄せられているものです。

生体認証を用いた身分証明システム、モバイル決済を活用した現金給付プログラム、オンライン教育プラットフォームなど、技術革新を難民支援に取り入れる動きが広がっています。 

ただしデジタル技術の活用には、プライバシー保護などの倫理的配慮も考慮されるべきでしょう。

難民の声と成功事例

難民の声と成功事例

難民問題を理解し効果的な支援策を考える上で、難民自身の声は必須の情報です。

当事者の経験や視点を知るのは、統計や報道だけでは見えてこない難民問題の実相を理解するために重要なものとなります。

また、困難を乗り越えて新しい社会で活躍する難民の成功事例は、他の難民にとっての希望となるだけでなく、受入社会にとっても難民の持つ潜在能力や共生、協力の可能性を示しています。

世界難民の日は、難民の声を広く社会に届け、彼らの経験から学ぶ貴重な機会でもあります。

難民の体験談や成功事例から、私たちが学ぶべきことを考えていきましょう。

難民の体験談から学ぶこと

難民の体験談は故郷を余儀なく離れた理由や避難の過程、新しい国での適応の苦労など、多様な側面を私たちに教えてくれます。

シリアからの難民の多くは、内戦による突然の避難を強いられ、家族や友人、財産を失った悲痛な経験をその体験談から伺えます。

また、アフガニスタンからの難民は、数十年にわたる紛争と政治的不安定の中で、幾度も避難を繰り返した苦難の歴史を持っています。

避難の過程での危険や困難も、多くの難民が共通して経験しているものです。

地中海を小さなボートで渡るアフリカやアジアからの難民は、命の危険を冒してヨーロッパを目指します。

密入国業者に騙されたり、人身売買の被害に遭ったりするケースも少なくありません。

難民キャンプでの生活は、基本的な生活インフラの不足や将来の不確実性など、また別の困難をもたらします。

新しい国で始める生活は、多くの難民にとって言語や文化の壁、差別や偏見との闘いの始まりといえるものです。

日本で暮らす難民からも、言語習得の難しさや就職の壁、社会的孤立感についての多くの証言があります。

しかし同時に、支援者との出会いや地域社会での温かい交流など、希望の光となる経験も語られます。

難民一人ひとりが異なる背景と経験を持っているため、一律の支援では対応できない個別の希望を理解していくのが肝心です。

難民出身の活躍する人々

世界中で、難民としての経験を乗り越え、新しい社会で活躍する人々が増えています。

成功事例は、難民の持つ潜在能力と、適切な支援があれば難民が受入社会と共に暮らしていける現れです。

国際的に知られる例として、ソマリア出身の難民だったモデルのワリス・ディリーは、女性の権利活動家として国連の特別代表を務めています。

また、南スーダン出身の選手グア・マリアルは、2012年ロンドン、2016年のリオオリンピックで初の難民選手団の一員として参加し、多くの人々に勇気を与えました。

ビジネス界でも、難民出身の起業家が革新的な事業を立ち上げています。

シリア難民出身のロニア・カラやバーゼル・カルターは、難民としての経験を活かして、難民向けのサービスやプロダクトを開発するスタートアップを創業しました。

また、アフガニスタン出身のハミド・ホセイニは、教育アクセスを改善するためのテクノロジー企業Techfigeesを設立し、多くの難民の子どもたちの学習機会を広げています。

日本国内でも、難民として来日し、様々な分野で活躍する人々がいます。 

ミャンマー出身のウー・エー・ミィン氏は、日本で貿易会社を設立し、ミャンマーと日本の架け橋となる事業を展開しています。

また、クルド人難民出身のメルハバ・カヤ氏は、クルド料理のレストランを東京で開業し、料理を通じた文化交流を進めています。

難民の成功事例は、新しい社会に適応し、活躍するための鍵となるでしょう。

難民コミュニティの力と可能性

難民は単に支援を受ける対象ではなく、自らのコミュニティを組織し、互いを支え合う力を持っています。

世界各地の難民コミュニティは、言語や文化の壁を乗り越え、新しい環境で生活基盤を築くための取り組みを行っており今後の難民との交流に大いに参考になるでしょう。

自助グループの形成は、多くの難民コミュニティで見られる活動です。

例えば、オーストラリアのメルボルンでは、アフリカ出身の難民女性たちが「アフリカン・ウィメンズ・カウンシル」を組織し、起業支援や教育プログラムを提供しています。

文化的アイデンティティの保持と共有も、難民コミュニティが大切しなければいけないものです。

伝統的な祭りや音楽、舞踊、料理などの文化的活動は、難民たちが故郷とのつながりを維持しながら、新しい社会に文化的多様性をもたらします。

ドイツのベルリンでは、シリア難民によるアラビア音楽のバンドが地元のフェスティバルで演奏し、文化交流の場を創出しています。

また、ケニアのカクマ難民キャンプでは、難民の若者たちが「カクマ・イノベーション・ハブ」を設立し、テクノロジースキルの習得と起業支援を行っています。

難民コミュニティの自主的な取り組みは、外部からの一方的な支援だけで形成されるものではありません。

支援団体や行政は、難民コミュニティのリーダーシップを育成し、彼らのイニシアチブを支える環境づくりに注力すると継続的な支援へとつながるでしょう。

難民との交流が開く共生の未来

難民と地域社会の交流は、難民にとって社会的孤立を防ぎ、地域社会との絆を深める機会です。

同時に、受入社会の人々にとっても、異なる文化や価値観に触れ、グローバルな視野を広げる貴重な経験となってくれるでしょう。

教育現場での交流は高い効果が規定でき、難民の子どもたちが地元の学校に通うことで、自然な形で地域社会との接点が生まれます。

また、難民の大人が学校で母国の文化や言語を紹介する「国際理解教育」の取り組みも、子どもたちの多様性への理解を深めるのに役立っています。

日本のいくつかの学校では、難民の子どもたちと日本人の子どもたちが一緒に取り組む「多文化共生プロジェクト」が実施され、互いの文化を学び合う機会が設けられています。

文化イベントやフェスティバル、スポーツや芸術活動も効果的な交流手段です。

サッカーや陸上競技など、言語に頼らないスポーツ活動は、難民と地域住民が共通の目標に向かって協力する場を提供します。

難民にとっては、社会的ネットワークの構築、言語習得の機会、文化的アイデンティティの肯定などのメリットがあるといえるでしょう。

受入社会にとっても、文化的多様性の豊かさ、グローバルな視野の拡大、社会的結束の強化などの効果が期待できます。

最も重視したいのは、交流が「支援する側・される側」という非対称な関係ではなく、互いに学び合い、協力し合う対等なパートナーシップに基づいている点です。